スポーツは、自分を育ててくれる。
たぶん、いちばん正直な自己投資だ。
自分で考えて、選んで、動く。
うまくいったり、いかなかったり。
それでも身体はちゃんと覚えてくれるから、不思議だ。
健康もできるだけ長く手元に置いておきたい私は、会員制のテニスクラブに通っている。
さすが生涯スポーツ。年齢も職業もバラバラな人たちと、同じコートに立つ。
まだ50手前の私は、先輩たちから「おい、若いの」と呼ばれる。
根が体育会系なので、「はいっ」と返事をして、少しだけ背筋を伸ばす。
その一連の流れが、なんだか気に入っている。
顔を覚えてもらうと、今度は質問が飛んでくる。
「何歳?」「仕事は?」
ほとんど尋問だ。
美容師だと知れると、なぜかテニスコートで髪の相談が始まる。
ラケットを持ちながら、前髪の話をする。なかなかシュールだ。
でも、真剣な人には、こちらも真剣に向き合う。押忍。
話を聞くだけで、ふっと表情がやわらぐ瞬間がある。
その顔を見ると、この仕事をやっていてよかったと思う。
ありがたいことに予約の話もいただくけれど、すぐには案内できない。
早くても一、二ヶ月先だ。
そんな様子を見ていた投資家の方たちが言った。
「もったいない。人を雇って、もっと広げればいいのに」
たしかに、その通りかもしれない。
でも私は、ずっと前から来てくれている、大好きなお客さんたちの顔を思い浮かべていた。
ああ、これで十分だな、と。
それでも彼らは続ける。
「規模を大きくして、会社にして、いずれは株式公開も夢じゃない。大きなお金が動くよ」と。
少し考えて、私は聞いた。
「そのあと、どうなるんですか?」
彼らは少し嬉しそうに答えた。
「引退して、小さな店で好きなお客さんだけ相手にして、あとは健康的にテニスを楽しむんだよ」
私は笑ってしまった。
「それ、今の私です」
コートに風が通る。
ボールを打つ音が、乾いたリズムで響く。
あれ、と思う。
もしかして私も、もう立派な投資家なのかもしれない。